"正しさ"とは一体どこの誰にとっての正解なのだろうな
『天気の子』感想です。
⚠️ネタバレ含みますのでご注意を!
本当によかった…!!!
好きか嫌いかでいうと私はめちゃくちゃ好きでした!!世界観から作画から物語の終着点までまさに好みの映画!
けれどこの物語が正しいか正しくないかでいうと答えられないな、というのが率直な感想です。
私はこの映画に文句つける人を否定できないと思います。だってきっとこの映画に抱く感情としてそれは間違っていない気がするから。
"正常"とは、"普通"とは、"社会"とは。
エンタメでありながら大衆の倫理観にここまで大きく訴えかけてくる作品も珍しいんじゃないかなと思います。
前作の『君の名は。』はほとんどの人が賞賛することのできるストーリーでした。
新海監督に万人ウケするものを作らせたらあんなとてつもない大作が生まれるのか、と驚きと寂しさ(オタク特有の)でいっぱいになりましたもん!
大衆が好む要素しかなかったんですよね。綺麗な絵、センスのいい音楽、切ない男女の恋愛、そして世界が救われてハッピーエンド。
しかもそれら全てがタイミングよくビタビター!っとハマるもんだから凄かった。
見やすくて気持ちの良い作品だったんですよ。
でも今回は色々と真逆。むしろ物議を醸そうとして作ってる。
「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい。」と監督がインタビューでおっしゃってましたがまさにそれ。
↓この記事がとても面白かったです
「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい」――新海誠が新作に込めた覚悟 - Yahoo!ニュース
『君の名は。』への「ご都合主義」「代償なく人を生き返らせて、歴史を変えて幸せになる話だ」という批判に真っ向から反発して出来た物語が、『天気の子』。
お話自体は『雲のむこう、約束の場所』に近いところがたくさんあるんですがそれをグッと身近にして、良くも悪くも味を濃くした感じ。
特に終わり方への賛否は分かれますね
陽菜を救ってセカイが救われないラスト。
あまりにも身勝手な帆高の行動と選択。
須賀さんは3年後は元気そうでしたが微妙な立場だったあの直後警察に公務執行妨害か何かで捕まって萌花ちゃんにしばらく会うことを許されなかったかもしれないし、喘息もちの萌花ちゃんは雨続きの東京で他の子のように元気に生活できなくなったかもしれないし、瀧くんのおばあさんの家は沈んだし…
もっとたくさんの人の人生を変えたと思うんです。
でもそれでいいんですよ、だってそのセカイを"選んだ"のだから。
帆高にとって「陽菜を代償に雨が止むセカイ」なんてなーんの意味もなかったんだから。
どうだっていいんですよ、君以外の全部なんて。
それだけの理由でセカイを変えてしまっても別にいいじゃないと思ってしまうんですよね、私は。
この辺に対する倫理観の違いが、作品の評価にもそのまま関わってくる気がします。いやこれ本当に面白いですよね…
今回私は友人の中でもわりと(この世の中でいう正常な)倫理観のある人と見に行ったんですよ、映画終わった瞬間「絵は綺麗だったけど、いくら会いたいからって拳銃ぶっぱなすのはワガママすぎない?てか空の上に2人で行って東京の天気は直したまま終わりでいいじゃん」って言われて価値観の違い最高ー!!!ってなっちゃいましたね!
私はこういうのが大好きな人間なので東京が水没した時ヒャッハー最高!って思ったし帆高に選ばれなかったセカイという存在が既に好きオブ好きで好きの限界値を更新してるんですが…
見終わったあと、こんなに誰かとアツく討論したくなる映画は久しぶりです。
この社会には様々な問題があって、全員が等しく幸せに生きているわけではなくて、正義の反対は他の誰かの正義で………
じゃあどうすれば良かったのか。自分だったらどうしたか。
誰にとっても身近で正解のない問いにこんなにも心を動かされるとは思ってませんでした。
きっと監督もそれを織り込み済みで、この(良い意味で)問題作に対する討論が生まれることを狙ってやっている。
むしろ『君の名は。』で監督の裁量権と観客の層が拡がったからこそ狙えるようになった。
大衆のコントロールが可能になった。
新海監督、すごいなぁ…
声優さんもよかったです!
主演の2人は全然知らない方だったんですけど、特に醍醐虎太朗くんの声はたしかに今までの主人公の雰囲気にぴったりハマる声でした。
新海監督の作品に出てくる主人公はみんな「ここにはないどこかを、ずっと誰かを探している」思春期の少年が多いイメージなのでしっくりきましたね
夏美さん役の本田翼さんもぴったりハマってて良かったです、私は今自分が「これから社会に属そうとしている」立場に当てはまるのでどうしても夏美さん視点で物語を見てしまうんですが、色々とわかる…と思いました
帆高を追い出した須賀さんに「ダッサ!」って言っちゃうし限界まで力を貸したい。
でも須賀さんくらいの年齢になると、出来ることと同じくらい出来なくなることも増えるのかもしれないな、と思いました。
「歳をとると大事なものの順番が入れ替えられなくなる」というセリフが刺さって抜けません。
そして今回も音楽面ではRADWIMPS!最高でした!
特に「グランドエスケープ」と「大丈夫」が個人的に好きです。
予告で流れたグランドエスケープの「ピンチの先回りしたって僕らじゃしょうがない」という歌詞を私は最初前向きな意味でとらえてましたが、警察から逃げる3人の"社会に取り残されながらも切り離されることは許されない"状況を見てこれわりと諦めに近い言葉なのかもしれないな…と思いました。あの若さじゃそれこそしょうがないことなんですけどね。
そういえば終始「東京の中でも治安悪いスポットをずいぶんと描くな!?」と思いましたが最近はどこもそんなもんか…綺麗なものだけ見て生きていきたいね…幼女だから…
今回は曲に合わせて映像を変えていったと聞きましたが、グランドエスケープは特にそうだったんじゃないかなと思うくらい歌詞と映像そしてタイミングがぴったりでしたね!
帆高と陽菜が互いに手を伸ばすところでちょうど「もう少しで運命の向こう」だったのがすごく好きです!
そして「大丈夫」はね…もうこの物語へのアンサーですよね…
「セカイなんて最初からおかしかった」「元に戻っただけ」と陽菜に言えばいいのか迷っていた帆高が見たのは、雨に向かって祈る陽菜の姿。
その瞬間「世界が 君の小さな 肩に乗っているのが〜」って流れ出すの、ズルくないですか!?
観客の心つかむタイミングばっちりかよ!!
そうだよ!お前達が!セカイの形を変えたんだよ!救わなかったセカイへの罪をその地獄を!!背負って生きていくんだよ!!!!!
って百万回心で叫んでました。ストーリーとの解釈完全一致しすぎて怖い。
でも私は帆高が陽菜を救ったことを罪と言えるのか…?
新海監督は「こんな主人公を愛せない、という人がきっと出てくる」とおっしゃってましたが仮にセカイを選んだ帆高を私たちは愛せるのか…?
だってセカイにとってどれだけ間違っていようと帆高にとっては、「陽菜を救う」というむしろ王道のストーリーにとっては、これがひたすらにまっすぐに"正しい"選択なのだから。
私たちが"正しい"と思っていることなんてそれくらい不安定で、見る人によって変わってしまう。
でもきっと帆高と陽菜はそんな歪んだ不安定なセカイで、それでも"大丈夫"といい生きていくんだろうなーと、ぼんやり思いました。
監督の今までのどんな作品よりも衝撃的なメッセージ性のある映画でした!
それにしてもあの、
四葉どこにいた!?!?!?
もっかい見てきます。